"論文"カテゴリーの記事一覧
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Psychological Characteristics of BDSM Practitioners
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1743609515304471
(学術誌 The Journal of Sexual Medicine 2013年8月号)
ドS、ドMなんて言葉が普通に聞かれるようになった現代ですが、かといって自分はSM界の住人だとカミングアウトするのは賢明なことではありません。
Sはアブナイ人、下手をすれば反社会的な人という目で見られる可能性があるし、Mは何をしても喜ぶヘンタイという目で見られるのは想像に難くないからです。
アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、精神疾患の診断・統計マニュアル。世界基準でもある)でも、2013年まではSM嗜好は精神病理となっていました。ちなみに現在は互いが同意しているなら個人の楽しみいう位置づけに変わっています。
さて、ではSM嗜好の人は本当に「人として終わっている」性格の持ち主なのでしょうか?
ここからは冒頭の論文のポイントを紹介します。
調査法など
この論文によれば、BDSMを実践している人の心理的特性を調べた研究はいくつかあり、大半が「BDSMを行っている人の心の健康状態は比較的良好と示唆されている」とのこと。
ここではBDSMを実践している902名と対照群434名に以下のオンラインアンケートを行い、回答が統計処理されました。
アンケートとして使用されたのは次の検査や質問紙でした。(少々専門的になるので「そういうものがあるのか」程度でお願いします)
・NEO 5因子検査
・愛着スタイル質問紙
・拒絶感受性質問紙
・WHO-5 精神健康状態表
ここからわかるのは次の心理的特性です。
・ビッグ・ファイブ・パーソナリティの次元(協調性、誠実性、外交性、神経症傾向、開放性の5つ)
・愛着スタイル
・拒絶感受性
・主観的な健康状態
結果
「BDSMを実践している人の心理的特性は、対照群よりも好ましいものが多い」。
具体的には、BDSMを実践している人は対照群(ノーマルさんたち)とくらべて
1.神経症的ではない
2.外向的
3.新しい経験にオープン
4.誠実
5.拒絶感受性が低い
6.主観的健康状態が高い
7.愛想をふりまかない
という傾向があるようです。また4つのアンケート(検査法や質問紙)のスコアに差があるときは、主>従者>対照群の順にスコアが低くなっていました。
紹介は以上です。まとめると
結論
- BDSM界の住人の方が、ノーマルさんよりも心理的特性が好ましい傾向にある
- BDSM界では、主の方が従者よりも好ましい心理的特性を持っている傾向にある
意外かな。そんなものなのかな。少なくとも「外の世界」の住人には驚きの結果かもしれませんね。PR -
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33547018/
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いきなりですが、ここで問題です。
ドミナント、サブミッシブ、一般人のうち<支配欲>が一番強いのはどれでしょう?
違いはどのくらいあるでしょう?
なんてSMクイズがあったら多くの人が
ドミナント >>>>(越えられない壁)>>>> 一般人 > サブミッシブ
と考えるのではないでしょうか。
実際はどうなのかを調査した研究がありました(冒頭のリンク=抄録)。
内容を紹介します。
【対象】
研究では、SNSを通じてドミナント、サブミッシブ、スイッチを募集し、性格検査を受けてもらっています。
応募したのは、BDSMコミュニティのドミナント、サブミッシブ、スイッチ計279名。
内訳は下図の通りですが、実数ではドミナント71名、サブミッシブ106名、スイッチ102名でしょうか。
全体では女性がやや多く(59.5%)、異性愛者が過半数(53.4%)を占めていました。
また年齢層は25~34歳が最も多く、全体の27.2%でした。(全体の年齢幅については言及なし)
【性格検査】
実施した検査は
・Personality Assessment Inventory(PAI、パーソナリティアセスメント検査)
・Interpersonal Reactivity Index(対人反応性指標)
の2つ。本来これらの検査ではさまざまな性格特性を知ることができるのですが、この研究では支配性(前者)と共感的関心(後者)にそれぞれ着目していました。
【結果】
○ 支配性
スコアの高い順に、ドミナント > スイッチ > サブミッシブ となりました。当然と言えば当然かもしれません。
しかし意外なことに、ドミナントのスコアは標準サンプルよりもはるかに高いわけではありませんでした。またスイッチとサブミッシブも標準サンプルの平均範囲に収まっていました。
ここからわかるのは、ドミナントは多くの人よりやや支配性が強いものの、極端に支配的ではないということです。
○ 共感的関心
共感的関心(Empathic Concern)とは、他者に温かい気持ちを抱いたり、共感したり、心配したりする傾向です。いわゆる共感性と考えていいでしょう。人に苦痛を与えて喜ぶドミナント、さぞや共感的関心は低いだろうと思いがちですが、研究の結果は意外なことに
ドミナント、サブミッシブ、スイッチ間で大きな差はない
というものでした(標準値とのずれは言及なし)。
【結論】
「支配好きで加虐趣味のドミナントは支配欲が人一倍強く、他者を思いやる気持ちは薄い」というイメージは、どうやら正しくないようです。
実際、経験豊富なドミナントほど腰が低く、周りに気を遣う人が多いと聞きますが、研究でもこれが確かめられたことになります。 -
BDSMプレイで痛みの感じ方はどう変わるかを調べた論文の抄録です。
1つ前の記事で紹介したものの本研究に当たります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33642237/
==まとめ==
BDSMカップル35組とBDSMに興味がない27名(対照群)で次の内容を調査。
- 痛み閾値の初期値(どのくらいで痛みを感じるかの初期値)
- BDSMプレイが閾値に与える影響
- BDSMカップルと対照群での痛みのとらえ方の違いなど
【結果】
- 総じてBDSMカップルの方が痛みに強い
- プレイ後の従者は一時的に痛みの閾値が上がる(つまりプレイ前よりも痛みを感じにくくなる)
- 主側は痛みを怖がるかどうか、痛みを大げさにとらえるかどうかで痛みの閾値が異なる
- 従者は対照群(一般人)よりも痛みを怖がらない
なお、カップルはベルギー・フランドル地方のBDSMコミュニティおよびクラブ利用者を通じて募集した。また痛み閾値は主観的測定であった。
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抄録を読んだ感想ですが、従者が普通の人より痛みを怖がらないのは、ある意味当然かなと。プレイのたびに苦痛を与えられるので痛みに慣れていることと、苦痛が快楽に変わる経験もしているので怖さは少ないのではないかと思いました。
またプレイ後の方が痛みを感じにくくなるのはあるあるですね。興奮していると痛みを感じにくくなってプレイ中に「もっと!」と求めることもあるし。
あと、主!
従者に痛みを与えておきながら自分は怖いんですか?
ちょっとした痛みも大げさにとらえるんですか?
従者側としては、もうちょっとしっかりしてくださいよ!(そのくらいでビビるなよ)と申し上げたい気がしますが(笑) -
BDSMプレイの前後で脳内物質はどのように変化するのだろうか。
これを調査した論文の抄録が公開されていた。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32044259/
内容をまとめると、
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35組のBDSMカップル(ドミナントとサブミッシブのペア)のプレイ前後のストレスホルモンおよび報酬ホルモンの変化を調べ、BDSMに興味がない27名の通常の社会交流場面での変化と比較した。
調査はベルギーのフランドル地方で行い、調べたのは次の3つであった
- コルチゾール(ストレスホルモン)
- βエンドルフィン(脳内麻薬と呼ばれる物質)
- エンドカンナビノイド、2AGおよびアナンダミド(脳内モルヒネ類似物質)
結果:
従者側はBDSMプレイによってストレスホルモンと脳内モルヒネ類似物質が増加した
主側はパワープレイ時に脳内モルヒネ類似物質が増加した
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パワープレイとは相手に苦痛を与え支配的に振る舞ういわゆるSMプレイを指し、対語はセクシャルプレイ。BDSMプレイはどちらも含むプレイと考えていいだろう。なので噛み砕いて表現するなら、
従者は、被虐と性的刺激でストレスと快感が高まる
主側は、加虐で快感が高まる
となる。見方を変えれば
・従者はプレイでストレスを味わいつつ快感も味わっている
・主は性的な刺激で快感を得ているわけではない
ということかな。従者にとって痛み自体はストレスなんだけど、それを快感として受け取っているし、性的刺激も加わって快感倍増というのはわかる。